乱暴ではあるが、佐藤慶吾の作品について、単純に一言でその特質を捉えると、
「YES」
であるとわたしは考える。
YESは肯定語である。佐藤は、作品ごとに、ストロークごとに、YESと言いながら画面に向かっているような気がしてならない。ストロークごとに、と言い、一筆ごとに、と言わないのは、彼の制作は、筆を使わず、ほとんどの作品を紙に色鉛筆を使って仕上げていくからだ。その力強い線と色彩は、それだけでわたしたちに元気を与えてくれる。
彼は身のまわりのものを何でも描いていく。花、モンシロチョウやクラゲなどの動物、東京タワーにムンクの「叫び」とモチーフはバラエティーに富む。そして、描いたものすべてを色彩で塗り込めることで世界を肯定していくのだ。その率直さはわたしたちの生き方と思考方向に、それでいいんですか?と再考を迫るものでもある。
人生には、楽しい思い出だけではなく、悲しく辛い場面も少なくないのが普通である。人災や天災、戦争などの不幸な出来事、日常生活や仕事のストレス、そういうものに囲まれて生きている。しかし、それに対して「NO」とばかり言っていても解決策は見つからないのだ。佐藤慶吾の絵画から、わたしたちは「YES」を学ばなければならない。
画面をもう一度よく見てみよう。これは何を描いているのだろう?とちょっと判別できないような形もあるのだが、タイトルを見ると、なるほど、これはクラゲを描いたのか、と納得すると同時に、その捉え方がユーモアに溢れていて思わず笑ってしまう。彼には、確かに世界はこういうふうに見えているのだ。また、その色は、モチーフの持っている色とはほとんど無関係に自分の好きな色を塗っているように思われる。そして、その配色の具合は、驚くべきユニークさを表わしている。この色彩感覚は天性のものなのだろう。
形の捉え方、色彩を見ているだけで、ほのぼのとした気持ちにさせられるのは、佐藤慶吾の性格が反映しているからだろう。
佐藤の絵を見ていたら、ショーペンハウアーのこの言葉を思い出した。
「幸せとはほがらかなことである。」
2022年5月
(よしおかまさみ/Steps Gallery 代表)