Steps Gallery

ステップスギャラリー 銀座

田崎亮平の手わざ

美術作品というものは、われわれの眼に訴えかけてくるものが多い。いや、そのほとんどが視覚芸術の範疇に入ると言ってもよいだろう。絵画はもちろんのこと、彫刻も写真も映像もしかりである。

色彩や形、イメージや動きを見せることで、われわれの網膜を通して心に訴えかけることで、その効果を発揮するわけである。

ところが、そのなかに、われわれの網膜と視覚に語りかけるのではなく、われわれの頭脳に直接訴えかけてくる作品のグループがある。われわれの網膜を喜ばせることを目的とせずに、作品の意味やその中に含まれる思想や物語を伝えることを第一に据える作品である。これをわれわれは概念芸術(コンセプチュアルアート)と呼ぶ。概念芸術はわれわれの知的興味を刺激する。

そういう意味では、田崎亮平の作る作品群は、まさに概念芸術と呼んでいいだろう。

2013年、東京のSteps Galleryで発表した『欲望の展覧会』(Exhibition of desire)というタイトルの展覧会では、本物の宝石から型を取って樹脂を流し込んで作ったフェイク宝石を3000個並べた。これは本物とコピーの境界線をはっきり示すものなのか、逆にあいまいにしてしまおうとしているのか、そのどちらかを決めないまま、われわれの側に決定と理由づけを迫るのである。

贈り物のパッケージに使うリボンを使った作品では、箱に絡ませて結んだリボンを結び目ごと樹脂で固めてしまい、箱を抜いたリボンだけを提示した作品である。贈り物とは、いったい何を送るのか、贈与という行為に対してのわれわれの立ち位置と姿勢を確認させる作品になっている。

あるいは、樹脂で地面そのものを型取り、地面の表面を写し取り、さらにその上に樹脂を流し込み、地平線を意識させる作品では、一見なんの変哲もない、樹脂の小さなキューブが、われわれの意識とイメージを根底から揺さぶるのである。

作品を見るわれわれの頭の中に浮かぶ、作品の構造体としてのイメージやそれにまつわる一連の想念のことを概念と呼ぶとすれば、概念(コンセプト)とは、作品の中に備わっているのではなく、見るものの心のなかに想起されるものであることになる。田崎の作品はそのことを明確に気づかせるものになるだろう。

田崎の作品は、まぎれもなくコンセプチュアルアートであるのだが、通常のコンセプチュアルと違うところがある。それは、まるで彫刻家が粘土を扱うように、画家がパレット上で絵具を調合するように、丁寧に作品を仕上げて、美しく、見るという鑑賞に耐えられるものにしてしまっている点にある。つまり、田崎の作品は、われわれの頭脳に訴えかけてくるだけでなく、手わざを駆使してわれわれの網膜にも刺激を与える力を獲得しているのだ。

コンセプチュアルアートでありながら、ことばの非常に素朴な意味で「美しさ」を備えた田崎作品は、難解になりがちな現代アートを逆方向から照らし出して、美術の新たな魅力を引き出しているのである。

(よしおかまさみ/美術家・Steps Gallery代表 2018年7月)

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