Steps Gallery

ステップスギャラリー 銀座

ミリツァ・ニコリッチの物語性

ミリツァ・ニコリッチの作品は、一言でいえば、「身近なものを捉えたスナップ・ショット」ということが出来る。そこには彼女の育ったゼムンの街の風景が、詩情豊かに表現されていて、見るものをほっとさせるような力がある。

2012年の6月末から7月初旬にかけて、ミリツァはゼムンの風景写真を携えて来日し、東京のSteps Galleryで個展を開いた。日本から遠く離れたセルビアのゼムンの街は、日本人にとっては全く初めて見る風景であったにもかかわらず、われわれ日本人は、そのなかに懐かしさを感じ、たちまち惹きつけられたてしまったのである。特別なテクニックもなしに、ただ無心のシャッターを切る彼女の姿が、作品の中に織り込まれていたからこそ、私たちの心に響いたのである。

今回のミリツァの作品は、東京で発表した作品のスタイルと基本的には変わらないのだが、そのメッセージは大きく変化しているように感じられる。今までのスナップ写真的な瞬間のシーンの捉え方から、より物語性を備えた豊かな画面になっている。

「写真は見るものではなく読むものである」

と言ったのは日本の写真家、荒木経惟(アラキノブヨシ)であるが、彼女の写真は、見るためのスナップショットから、読むための物語に変わりつつあるようだ。それは、とりもなおさず、ミリツァの様々な経験や感動や悲しみが、ないまぜになって、人生を深いものにしているからではないだろうか。

よしおかまさみ/美術家 2017年3月

03-6228-6195