Steps Gallery

ステップスギャラリー 銀座

現実と向き合う

纐纈 令 展/2023年9月18日 – 23日

Steps Gallery Criticism by MIYATA Tetsuya

纐纈令は今回、2020年代という近作と共に新作を展示した。前回もそうだった記憶があるから、何だ、新作に自信がないのかと感じたが、よくよく考えると、自らを俯瞰しようという行為を繰り返していて、これは浜田浄もおこなっているので、そうか、それはそうでいいことではないだろうかと感じるようになった。考え方を変えると見方も変貌する。

今回の展覧会を見ると、纐纈が集合と離散を考察していると私には感じた。個は個だが、集積すると全体になる。それは美術の世界だけではなく、人間もまたそのような運命を辿ることが多いのだが、人間の場合、直ぐに全体主義に陥ってしまう。しかし纐纈の作品にある個は飽くまで個のままであり、全体に集約されることなく、個が輝き続ける。

今年の作品群は、個であると共に、更に複数の画面が展開している。これをスマートフォンに代表されるマルチ・タスクと見るのは簡単なのだが、私にはそう見えない。複数の宇宙を行き来する幻視者の眼差しを引き継ぎながらも、その魔術性に頼らず現実と向き合おうという纐纈の意志を感じるのだ。この決意は、なかなか容易ではない。誰もが現実から目を背ける。

そのような感覚で旧作に眼を投じると、纐纈はこれまでもこのようにやってきたのではないかと気付く。それは纐纈が意図していないことであり、単なる私の眼差しかも知れないが、それでもいいではないか。作品とは、作品とそれに注ぐ視線から生まれる言葉がスタートとなるのだから。纐纈のみならず、あらゆる作品に対して自由な発言をすべきだ。許される限り。

(2023年9月21日初見・2024年1月5日記)

03-6228-6195