甲斐 千香子 展/転生図鑑 死なないものたち/2023年11月13日 – 18日
Steps Gallery Criticism by MIYATA Tetsuya
甲斐もまた、旺盛に発表を続けるステップスのアーティストの一人である。他の画廊でも発表していて、ステップスギャラリーでアルバイトをしながらも、なにかしらの絵を描いている。やはりアーティストは常に手を動かしていなければならない。その瞬間瞬間が、次の作品を生み出す機運を齎す。今回の甲斐の作品を見ていると、彼女の過去作品が頭を掠める。
甲斐は、展覧会毎に、常に自己に課題を持っている様子だ。双六だったり、コスメだったりして、常に彼女の身の回りの世界を大切にし、大切にするからこそ自己と向き合えるのであろう。今回の課題は、「転生図鑑 死なないものたち」である。枝となった雷に気づかず鳥たちは休息を求める。口紅が花となって咲き乱れ、蝶はそこに蜜を探す。
使い果たされたコスメは、決して墓場にはならない。靴もまた、命を吹き返す。一度与えられた命が朽ち果てたとしても、それらが転生する姿を甲斐は描いているのだろう。そしてこの転生に、果てはないのだろう。ゴールは存在しない。それが転生であり、キリストのような復活ではない。ヘーゲルのいう消滅と生成でもない。それはある意味、永劫に続く。
私は甲斐の意図と別に、これらの命は「死なないものたち」ではなく、「死ねないものたち」なのではないかと感じる。つまり、まだ、死んでいないように私には見えるのだ。それは決して未練だとか悔いの感情は含まれていない。まだ、生きている。役割を終えていない。命の役割とは何か。そこに、果てはあるのだろうか。それを、誰が決めるのであろうか。
(2023年11月18日初見・2024年1月6日記)