Steps Gallery

ステップスギャラリー 銀座

騙されてしまう

槙野 央 展/daily life/2023年8月23日 – 9月2日

Steps Gallery Criticism by MIYATA Tetsuya

槙野もまた、旺盛にステップスギャラリーで作品の発表を続けるアーティストである。今回、槙野は様々な場所へ行った時の紀行文とそれにまつわるオブジェを作品化した。北海道と白い恋人、沖縄のアイス、新潟のたれかつ弁当、埼玉の最中。主題に拘るだけではなく、単体の作品もここには出品されている。文章が添えられていないものもある。自由である。

それだけではない。ウクライナと向日葵、鳥インフルエンザと卵、S先生とご実家、祖父母の部屋で食べた吉原殿中といった、記憶や想像といった事物と事象も含まれている。このような自在さが、槙野の魅力の一つなのであろう。適当でも、いい加減でもない。かといってカッチリし過ぎない。芸術とは、本来、そういったものではないだろうか。

特に注目するのが、《赤松角材》である。「しばらく前まで、「税込990円」と記憶していました。(略)先日久しぶりに買おうとしたら、こんな値段になっていて驚いた次第です」と書いてあり、値段を見たら7万円だ。これはパロディでもレディメイドでもコンセプチュアルでもない。紛れもない槙野にとっての事実であり、その結果の値段なのであろう。

値段で美術を考えると総てが原価になってしまう。この原稿を書く時に気づいたのだが、素材に「木にアクリル」とある。写真を見返すと、どれがアクリルなのか判断できない。透明のアクリルが塗ってあるのだろうか。もしかしたら、木目を描いているのであろうか。槙野ならあり得ることだ。槙野に騙されてはいけない。今度から、もっとちゃんと作品を見ることにする。

(2023年8月25日初見・2024年1月5日記)

03-6228-6195