T – ゲントク 展/One and Many * /2023年10月23日 – 28日
Steps Gallery Criticism by MIYATA Tetsuya
ゲントクは建築科を卒業し、書を好くして絵画に立ち向かっている。これまでも野心的な作品をここ、ステップスギャラリーで発表し続けている。今回もまた、書とか絵画だという従来の定義では収まらない作品を見せてくれた。ゲントクは作品制作の意図を話してくれたし、プリントとして配布したが、ここではその記憶を排除して、その時の感覚を記すことにする。
漢字が象形や甲骨に由来することはよく知られているが、本当にそうなのだろうかと疑う。人間の象徴性、即ち心の中の問題は、決して具体的な形を成さない。具体的にすべきなのは、集団生活で、身近ではない、少し遠い存在を意識した時に生まれる。例えば親しい間柄であれば、言葉など必要とせず、眼も合わせずに相手と心が通じ合う経験は誰でも持つだろう。
すると本来、文字など必要とされず、あったとしても原初の文字とは縄文土器のように、古代の壁画のように、具体的ではなく抽象的なのではないだろうか。そのような発想でゲントクの作品と向き合うと、形が解体されたとしても、その躍動感は充分に伝わってくると私には感じる。日本語以外の文字が混在していたとしても、その意味と意義が伝わってくるのだ。
今回の作品群は、ヴァリエーションであったり背景が異なっていたりと様々に展開している。この展開がまたそれぞれの存在意義を浮き彫りにし、確立し、同じ作品がひとつもないことを知らしめる。そこには、同じ人間など一人もいない、それぞれの個を尊重し、その上で意を唱えるべきだという、民主主義ではなく大量虐殺の跡が見えない縄文文化が垣間見えるのだ。
(2023年10月28日初見・2024年1月6日記)