Steps Gallery

ステップスギャラリー 銀座

不安の行方

中村 ミナト 展/彫刻/2023年10月30日 – 11月11日

Steps Gallery Criticism by MIYATA Tetsuya

画廊内には大型の彫刻が一点、展示されている。事務所には、その作品のマケットと他の小品がある。それだけのシンプルな展覧会であったのに、忘れられない。それ程までに、衝撃的であった。中村はステップスギャラリーで何度も個展を行っているので、空間を知り尽くしている。にも関わらず、誰も考え付かない、恐らくは中村自身が「挑戦」した作品と展示であろう。

私は一瞬、自分が何処にいるのか、分からなくなった。私もまた、このギャラリーには12年、通っている。馴染んだ空間な筈なのに、違和感ではない、別の場所にいる気がした。それどころか、作品を巡って見ていると、場所の感覚が喪失したのである。時間の感触もまた、消えてしまった。こうやって評を書いていて、あの時私は其処にいたのか、不安になる。

その不安は、作品を見ている際にも、画廊を出た後でも持っていたことを今、思い出した。私はこの感覚を持ち続けるのだろう。それは何時か拭い去ることになるのかも知れない。この作品を別の場所で見たり、中村の次の新作に触れたりしたら、この感覚は溶けて消えてしまうのかも知れない。それがどうなるのかは全く分からないし、考える必要も生じないであろう。

ギャラリー天井の梁ギリギリにまで、作品は届こうとしている。ある面から見ると作品は極端に窮屈に感じられ、また別の角度から見ると支えている支柱は喪失する。この作品に正面など存在しない。我々が顔を見ないでもその人の存在を感じられるように。もうそこにいないとしても、まだ側にいる感覚が残っているように。それを、我々はどのように考えているのか。

(2023年11月9日初見・2024年1月6日記)

03-6228-6195