石倉 仁一郎 展/2023年11月27日 – 12月2日
Steps Gallery Criticism by MIYATA Tetsuya
近年、再デビューを果たした石倉。この年もこの個展開催前の10月に藤野・百笑ギャラリーで個展を開催し、それ以前にも私は石倉の作品を聖蹟桜ヶ丘などで多数、見ている。今、最も熱く活動しているアーティストの一人である。石倉は展覧会の都度に、作品のタイプを変化させる。その為、総てが「過程」であると今のところ、思ってもいいのではないか。
結果のない過程。これは石倉が言っているのではなく、私が見た石倉の作品の定義である。結果がないということは、目標や目的がないことを示す。目標や目的など、制作上で、必要ないのではあるまいか。それは人生も同じことである。いつ、どこで、何が起こるかなど、絶対に分からないし、知りたくもない。分かってしまえば、それは「人生」と言えない。
今回石倉は、これまでにあった線を曖昧な面にすることで、区別されるべき対象の区別を消失させ、この消滅によって区別されるべき対象の差異を明らかにし、強調していると私は感じた。区別されるべき対象とは、あれとこれである。あれとこれは同じではない。違うのだ。だからこそ、それを伝えなければならない。区別しなければ、同じになってしまう。
違いを明確にすることで、違いが分かりやすくなるとは決して限らない。曖昧にするからこそ見えてくるものがある。光のない闇の中だからこそ、浮かび上がって見えてくるものがある。雑踏の中だからこそ、遠くから明確に聴こえてくる一つの音楽がある。光は波でも粒でもない。その両方であることと、石倉の作品は似る。我々は、分からないことを恐れてはならない。
(2023年12月1日初見・2024年1月11日記)