古藤 典子 展/2023年12月11日 – 23日
Steps Gallery Criticism by MIYATA Tetsuya
Vol.372
古藤さんのこの展覧会の作品に、私は鋭利な刃物が漆黒の空間に浮いているような印象を受けた。これまでの作品と比べて平面性が強い。それにも関わらず縦横の線が無尽に駆け巡るため、返って立体感が生じてくる。目で見るモノとは脳が創り上げる幻影で、実際のモノを確実に見ていないと良く言われるが、そのような本能に対して、古藤さんの作品はESに働きかけてくる。つまり防御ではなく、攻撃を誘発していくのだ。無論、ここで言う「攻撃」とは悪意と区別される。競争と闘志が異なる様に。「守り」に入らず、「挑戦」を繰り広げるということだ。それは古藤さんのみならず、古藤さんの作品を見る者にも当て嵌まる。
抽象で、地と図が反転する作品といえば、私は山口長男を直ぐに思い浮かべる。しかし古藤作品と山口作品は、全く異なる発想からスタートしているので、並び評することは出来ない。それを前提に比較すれば、共に事物の現象を追っている、生きた絵画であると論じることはできるのではないだろうか。留まることを知らない森羅万象に敬意を払いつつ、そこに自らを投じ、自らを含む変化を瞬間として捉え、描き切る。それは紅葉に美を感じたり、虫の声に耳を澄ませたりする特殊な心を持った者にのみ、可能なのではないだろうか。虫は羽を擦り上げているだけで、声を発していない。しかし音を通じて心を通わせているのであれば、声を発することが高等であると判断することに意味はないのではないだろうか。そう思うと、古藤さんの作品から、音が聴こえてくるような気がしてきた。それは、どのような音であろうか。
(2023年12月14日所見・2025年9月27日記)
